本の裏表紙の「最後から二行目で、本書は全く違った物語に変貌する」という言葉に惹かれて読んでみました。
最初、終盤から「何かがヘン」と思っていましたし、最後の二行目で「全く違った物語に変貌した」(つまり「自分がそれまで思っていたのとは全く違う何かが隠されている」ということ)のはわかりましたが、読み終わった時点では著者が施した「仕掛け」の全貌はよくわかりませんでした。 そこで巻末の大矢博子氏の解説と、「『イニシエーション・ラブ』を理解するための用語辞典」を読み、所々にある太字部分を読み、該当部分を中心に再読してようやく理解できました。 この「用語辞典」は、一見、単なる「本書の舞台であるバブル期に青春を送っていない方々のための用語解説」に見えるため、特に私のようにバブル期に青春を送った世代の場合、「わかっているから」と読み飛ばしがちですが、本文を読み終わった後(絶対に「前」ではなく「後」)に、説明文中に太字が入っている項目だけでも読むと、その「仕掛け」がより理解しやすくなると思います。
この「仕掛け」に関し、私は他の本では見たことがなかったため素直に感心しましたが、その「仕掛け」がわかった後でも、「恋愛小説」としては、あまりに普通すぎる恋愛模様しか描かれていないと感じました。 「二回読みたくなる」は、私にとっては「(「仕掛け」を確認するために)二回読みたくなる」であって「二回読みたくなる(ほどおもしろい)」ではありませんでした。
ハマり落ちた男の話
あらすじ
『イニシエーション・ラブ』の衝撃、ふたたび。 1983年元旦、僕は春香と出会う。僕たちは幸せだった。 そう、春香とそっくりな女・美奈子が現れるまでは・・・ 良家の令嬢・春香と、パブで働く経験豊富な美奈子。 うりふたつだが性格や生い立ちが違う二人。 ほんとに僕が好きなのはどっちなんだろう?
感想
予断なく読みたい人は回れ右、あるいは左をしてください。
イニラブありきの本作。 冒頭から、語り手の男がBAD ENDを選択したことが明かされます。
どうやって、どんな仕掛けでこの男が不幸に突き落とされるのか。 注目はそこに集まります。
他人の不幸は蜜の味。 そうやって甘い蜜を舐めるのに夢中になっているうちに 伏線を次々読み逃していき、ひどいラストが姿をあらわにします。 特に、中盤あたりに出てくる唐突な一言がラストにつながるさまは 唖然、開いた口がふさがらないくらいひどい。
今作が優れている点は、一撃必中の仕掛けだけにあるのではなく、 ちゃんと恋愛小説の体裁を整えているところにあるんだと思います。 だからこその、落差のある墜落があります。
一度くらいは、乾さんによる普通の恋愛小説を読んでみたいです。 何かあるぞあるぞ、と見せかけて何も起きない。 それはそれで、面白そうだと思います。
読んでからの一言 「2011 本格ミステリベスト10」の評論が的確過ぎてしどい
もし、現在の記憶を持ったまま十カ月前の自分に戻れるとしたら―。この「リピート」に成功した、年齢も職業もバラバラの十人の男女。ある人は東大入学をもくろみ、ある人は競馬で大もうけをたくらみ、ある人は惨めな結末に終わった恋愛のやり直しを考えています。しかし彼らは1人、また1人と、不審な死を遂げていきます。誰が「リピーター」を殺しているのでしょうか?また、その理由とはいったい? ケン・グリムウッドの「リプレイ」が好きだから、この本も読んでみようかな、というのはやめたほうがいいと思います。帯に書かれているように、確かにしかけは似てるんですが、全然違う種類の小説です。 「リプレイ」もですが、似たようなネタを扱っている北村薫の「スキップ」や「ターン」、東野圭吾の「トキオ」、最近読んだ貫井徳郎の「さよならの代わりに」など、タイムスリップものでは、主人公が善人で一生懸命な人物である場合が多いですよね。タイムスリップで過去に戻ったあと、不幸な未来を変えようとしたり、自分の間違いを正そうとしたりするパターンが多いです。だからこそ、爽やかで、切ない物語が多いんですよね。 でも、この本はそういう本ではありません。タイムスリップをした後は保身が最優先され、そのために細心の注意が払われる様子が、具体的に描写されます。不自然に見えないように競馬で大もうけする方法、とか。登場人物が、そろいもそろって利己的で計算高い、嫌な感じの人間ばかり。一番普通に見える主人公の毛利でさえ、小心者の女好きです。 でも、リアルであるとは言えるかもしれません。現実に、タイムスリップができたら、人間ってこんなものかもしれない。 ミステリーとしては、とても面白かったです。私は全然、謎解きできなかったし、ラストは本当に衝撃的でした。
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