ミステリファンには物足りない、との評価が多い本作。
ここではネタバレに関するレビューはしない。
筆者自身、折原一に誘われ、クリスティー、クイーン、等々様々な作品を読みあさってきた。
エンディングのどんでん返しはミステリーの魅力の一つだが、それに囚われると作品としての魅力が星一つ下がってしまう。
読者もそれを期待してページをめくる。
どんでん返し、どんでん返し。さあ、自分を騙してくれ、と叫びながら。
ミステリーやホラーも、小説、ひいては読み物の一ジャンルである。
最初の一行目から最後のエンドマークまで、「読む」為にある。
クライマックスやエンディングも重要だが、そこに至るまでの課程も楽しめなければならない。
閑話休題。
本作はある事件の真相を追って、女主人公が行動していく。その間のドライブ感、そしてさりげなく挿入される新たなる「謎」が物語を盛り上げる。
主人公と
探偵役の先輩も魅力的だ。若々しくてちょっと焦れったいラブロマンスも緊張を和らげるクッションとして用いられている。
だが驚くべきはその伏線の張り方だ。
読者から読む楽しみを奪うのはあまりに罪であるから、ここで作品に関する筆を置くとしよう。
ラストが、ラストが、との声はもっともかもしれない。だがその間にある読む楽しみまで否定しては世に溢れる小説は真の価値を発揮出来ないのではないか。
本作を手にとって、著者の職人技とも言うべき素晴らしいリーダービリティーを目にしてほしい。そしてその世界に浸ってほしい。ラスト一行だけの一発屋には出来ない、素晴らしい世界がそこにある。
「読み」ましょう。
今邑氏の作品にははずれがない。これも文句ない秀作。
金雀枝荘の持ち主である実業家の
ドイツ人妻の唐突な出奔、70年前の管理人による理由なき殺人と自殺、前年のクリスマスに起きた奇怪な惨劇など次々と謎が提示され、目が離せない。一見荒唐無稽に見えた見立て殺人も、その必然性と殺人の動機が解き明かされると、無理がなくすとんと腑に落ちる。不自然なところがないように、隅々まで配慮がされている感じ。しかも、真相はちょっとやそっとで予測がつかなくて、終盤であっと驚かされた。
クライマックスで若者たちが犯人に襲われるシーンは、迫力満点で映像が目に浮かぶようだ。古い洋館という舞台装置もいい。
合理的な解釈がなされながら、超自然的な要素も織り交ぜられているし、最後に皮肉などんでん返しもあって、一粒で二度も三度もおいしい作品だと思う。
ひとつ残念なのは、ヒロインともいえる杏那に好感が持てなかったこと。惨劇の起こった館に一人で住もうとするなんて、大胆というより合理的過ぎて情趣に欠けているとしか思えない。霊感少女・笠原美枝は相当いらつく娘だが、それを考慮しても杏那の彼女に対する言動は悪意に満ちすぎていていやな気分になる。こうなると、料理が下手なことまで気に食わなくなってきて「親の手伝いなどしてこなかった横着な子」という悪いレッテルを貼りたくなる。作者は「男勝りでさばさばした娘」として描いたのでしょうか? ならば少し見当違いな気がする。
でも、とても面白かったので評価は満点。