冷戦の終焉後、「いよいよこれから平和な時代が到来するのではないか」という純朴な高揚状態が束の間のあいだ世界を席巻したが、そうした時代の空気を感じさせる作品である。その意味では、ひどく暢気な作品であるともいえるだろう。
1990年代の公開以降、
ハリウッドのスパイ・スリラーの世界は――たとえば、Tony Scottの“Enemy of the State”にみられるように――全てがハイテク化されてしまい、完全に様変わりしている。しかし、この作品をみると、わずか20年程前までには、古典的な情報収集法である「ヒューミント」が諜報活動の主流を占めていたことを再発見することができて、新鮮な感覚を覚えた。また、同じ諜報活動に対しても、イギリスとアメリカの発想が非常に異なることが、明確に示されており、その意味でも、とても興味深い作品である。
ただし、作品の出来そのものは、フレッド・スケピシ(Fred Schepisi)という名職人が監督をしているにもかかわらず、ごく平凡なもので、また、驚くほど物語が弛緩したものであるためか、出演する数多くの個性派俳優たちも十分に活かしきれずに終わっている。とりわけ、個人的に不満を覚えたのは、本来であれば作品が盛り上がるべき終盤において、物語が全く緊迫感を湛えることなく、終息してしまうことである。また、回想を用いて、作品の終盤において実際に何が進展していたのかを視聴者に種明かしするという方法はあまりにも非効果的なもので、そこにこの作品の失敗の原因があるような気がする。
ところで、劇中に流れるJerry Goldsmithによる甘美な音楽が非常にすばらしい。その見事な作品に聴き入りながら、久しぶりにこの作曲がもうこの世にいないことを残念に思った。
ドイツオペラはワーグナーと両シュトラウスばかりではない。本国の
ドイツでは当たり前のように上演されているが、ここ日本においてはさっぱりなのが、このロルツィングである。
真の
ドイツオペラファンの間では、その素晴らしさは十分に認識されている。
しかし、どこのオペラ団体も顧みることはない。つまり上演されないのだ。なぜだろう。
渡独した音大生で、たまたまこの作品や『密猟者』などを観劇した者が、初めてその偉大さに気付くのである。
待ちに待ったロルツィング作品の発売である。まずは期待を込めて星五つだ!