映画評論家でコラムニストの町山智浩が月刊誌『クーリエ・ジャポン』に連載していたコラム記事「USニュースの番
犬」(2010年1月号〜2012年10月号)を加筆修正してまとめたのがこの本です。
自由を尊び、より小さな政府を目指す共和党派と、平等で弱者が救われる社会を目指す民主党派。この二つの対立を如実に示す、日本人の想像を絶するほど奇怪な近年のアメリカ社会の事象を、辛辣なユーモアあふれる筆致で差し出します。
昨2011年10月に『
USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実』がちくま文庫化されたのを手にした際、私は書評でこう記しました。
「著者は最近も卑近な話題をとりあげながらアメリカをあらゆる角度から解析する活動をますます精力的に続けています。そうした最新コラムは掲載媒体が多岐に渡っているため、なかなかまとまって読むことができずに残念に思っているところです。 今回のような旧作の文庫化に優先して、そうした最新記事をまとめた書籍の刊行を期待しています」と。
それは私が敬愛するこの著者であるからこそ、7年も前のノンフィクション刊行物を文庫化して発売する前にファンである読者に贈るべきものはあるだろうという強い思いの表れでした。そして今回ようやく私の願いがかないました。
キリスト教を聖書の字義通りに解釈し、銃の保持を憲法が保障した権利と声高に叫び、妊娠中絶と国民皆保険に徹底的に抵抗する。そんなウルトラ保守の奇妙奇天烈な様態が次から次へと登場し、日本の読者は太平洋の向こうにある大陸のことを、苦笑をもって眺めやることになるかもしれません。ですが、著者はそんな風に対岸の火事としてアメリカを捉えることを最後の最後にこう読者に戒めて筆を置くのです。
「ニュー・ディール政策が破綻してから新自由主義が始まるまでの70年代、アメリカは目標を失って10年間も迷走した。08年の金融崩壊からまだ4年しか経っていない。まだしばらく混迷は続くと思われる。そのあいだ、ずっとアメリカに追従してきた日本はどうするのだろう?」(301頁)
そう、アメリカは良くも悪くも世界に多大な影響を及ぼす超大国なのです。
日本にいることでその実態を見通せずにいる読者の蒙(もう)を啓(ひら)く書として多くの人に勧めたい一冊です。