街を陰る死翼 (現代教養文庫 853 世界怪奇実話 3)
著者は林不忘、谷譲次の名でも活躍した戦前の小説家/ノンフィクション作家。
本書には、20世紀前半に起きた残虐な事件、不思議な出来事、怪しい人物を扱った7篇が収められている。
スコープス裁判は、1925年にテネシー州で神学的理由から、進化論を学校で教えるのが州法によって禁止され、それを破った高校教師が裁判にかけられたというもの。裁判の顛末がおもしろおかしく紹介されている。
第一次大戦中の女性スパイの話もおもしろい。どんなふうにしてドイツ軍の監視や取り調べをごまかしていくかに読みどころ。
1928年にイギリスの湖水地方で妻を殺したとして死刑になった中国人法学博士の事件も、取り調べの模様、裁判のずさんさ、結局謎のまま残った真相についての推察など、かなり詳しく書かれている。
いま読むと時代かがっているし、書きぶりがあざといし、著者の筆が滑ったようなところも少なくない。とはいえ、当時のジャーナリズムの雰囲気が伝わってきて興味深かった。これらは、まさに同時代の事件を伝えていたわけだし。
牧逸馬の世界怪奇実話 (光文社文庫)
ある時は谷譲次、ある時は林不忘、そしてある時は牧逸馬。20世紀初頭に登場したMOBO、長谷川海太郎。偉丈夫にしてファッション・センス抜群。数々の作品を残し35才で死去という伝説の作家である。その作品を島田荘司氏が見事に編纂、読者のもとに再復活してくれたのが本書である。
トップが『切り裂きジャック』。島田氏の小説に何度も何度も登場するジャック・ザ・リッパーの源泉はここにあるのは間違いのないところだろう。牧逸馬の世界怪奇実話の諸作は島田氏の多くの作品のインスピレーションの源泉になっているのがよく分かる。それだけ刺激的という事でもあるのだが。
何しろ、伝説の作家牧逸馬の作品を読めると言うことだけでなく、島田ワールドの源泉に触れると言う意味合いもあり、二重の意味で重要な作品だ。