貧困旅行記 (新潮文庫)
すごいのは、一度も会ったことのない離婚歴のある女性だけれど結婚してしまえばそこに住みつけるという理由で九州へ旅立つ著者の発想である。このことにことさら云々といっているわけではないので、どうやらそういう感覚がこの人にとってはごく自然のことらしい。ふまじめである。いいかげんである。たまらなくステキだ。とてもいいくだりがある。新幹線で広島を過ぎたとき、一匹のハエが窓ガラスにとまっているのに気づいた著者は「このハエは私と同じように大阪から乗ったのだろう。するとこのまま九州へ行くことになる。九州へいったら戻ることはできない。そうしたら九州でどのような生き方をするのだろうか・・・」とぼんやり思う。つげワールドがゆっくり旅をする。
無能の人 [DVD]
一般社会から遊離した売れない漫画家の日常生活を描く。「大衆に迎合したマンガは書かない」と妻らに豪語するものの、生活費を稼ぐのに四苦八苦し、しかも浮かぶ金儲けのアイデアはどれもうまくいかない。
気だるさの質感が画面を支配するものの、ある種の温かさを持った家族と主人公がユーモアを持って描かれ、何かほっとさせる。
CGもアクションもありませんが、とっても好きな映画です。原作はつげさんの漫画ですが、映画はつげさんの漫画のいくつかの要素を巧みに混ぜ合わせた構成となっています。
脇役の風吹さんや神戸さんの演技がとても冴える小秀作です。
ねじ式 [DVD]
よくもまあこれを映画にしようと思ったなというような、奇妙な映画。
面白いといえば面白いんだけど、これを何度も見ようかというと、なかなか映画そのもの以外への思い入れがないと難しいのではないでしょうか。
つげ義春コレクション ねじ式/夜が掴む (ちくま文庫)
つげ義春さんはこれが初めてですが、作品には既視感を覚えますねぇ。安部公房の「笑う月」と同じように「そうそう、こんな夢みるみる」と素直に感動してしまいました。羊水のようにちょっと生臭い、怖い夢。もっともっと読みたいですが、寡作とのこと。他の作品も是非読んでみたいです。
つげ義春ワールド ゲンセンカン主人 [VHS]
つげワールドをいろいろな監督が映画化していますが、この作品は自然ですね。監督の存在が感じられない程自然です。前世、因果、を感じさせる詫びたエロスが漂っており、なんとなく好きな映画の一つです。群馬県の湯宿温泉の大滝屋がモデルらしいのですが、見事に老人しか泊まっていなかったり、隣の部屋からお経が聞こえたり、混浴温泉で何かの拍子に、中年女性の女性器が丸見えになったりと、若い頃の、つげ本人の強烈な体験が土台になっているそうです。リアリズムの宿もそうでしたが、もの凄い旅館に出会う運命なのでしょう(笑)つげ本人もこの映画に出演しています。この中の物語では、李さん一家、ゲンセンカン主人が、とても好きです。なぜだろう?不思議なせかいで、つげワールドが色濃いからなのでしょうね。池袋百店会は、映画にすると、よくあるメロドラマのようで、イマイチでした。評価は3と4の間です。