熱いトタン屋根の猫 [DVD]
まるで熱いトタン屋根の上の猫のようにおのれの性欲を向こう三軒両隣に発散しているエリザベス・テイラーは耀くように美しい。
猫どころか荒野を疾走するピューマのように自分の欲望をまっしぐらに貫こうとする動物的生命の燃焼と躍動の光波は、人生に拗ねているポール・ニューマンのみならず見る者すべてを圧倒する。
これとは対照的に、親友を自殺に追いやったのは自分だと自責の念に駆られ、自棄自暴に陥りアルコール漬けの退嬰的な生活を送っているホッモセクシュアルのポール・ニューマンの悲惨な姿は映画とはいえ真に迫っている。
そして死病の告知を受けながらもそんな息子と正面から向き合い、彼の複雑に入り組んだ精神の暗闇にともに侵入してついにコンプレックスを紐解き、父親としての責務を果たそうとするバール・アイヴスの熱演は、「大いなる西部」で名演技をしのいで素晴らしい。
最後の終わりよければすべてよしというハッピーエンドは強引にとってつけた感があるが、それでもテネシー・ウイリアムズ原作のこの映画は、一匹の熱いトタン屋根の雌猫が、恋する雄猫の同性愛をほんの一瞬でも異性愛に転換させ、彼女の思惑通りに晴れてベッドインするという大人の幸福な寓話たりえて見事である。
熱いトタン屋根の猫 [DVD]
有名なテネシー・ウィリアムズの戯曲の映画化作品。
よって、多少舞台演劇臭がただよいますが、
やっぱりいい脚本はいいですねー。世界観が今とは全く違いますがね。
今では老体のポール・ニューマンとエリザベス・テイラーが
かつては、こんなにも美しかったのか!と驚かされます。
そして、ハンサムなだけでなく、ニューマンはやっぱり演技派ね、
と納得させられる一本でもあります。
不良息子ブリック役は、彼以外で想像できないほどです。
おまけ特典が無いので星は四つですが、
なぜか何度も見てしまう魅力があります。
欲望という名の電車 (新潮文庫)
一見、「キャリアか家庭か」の選択を二つの人生であらわしたような対象的なデュボワ姉妹。 乱暴で下卑た夫スタンリーに愛され養われる可憐な妹ステラ。 一方の姉ブランチは教職に従事するかたわら、失われる一家の財産と死んでゆく老人をみて自らも老いた。男色の罪に苛まれ自殺した少年の未亡人であり、娼婦でもある。
しかし、ブランチは老いても女であり、彼女の送ってきた人生は、近代化以後の一般的な女性の生き方とさして大差があるとは思えない。 無条件に夫にしたがう無垢な妻を装って、実は抑圧の少ない南部の女性にまじって確実に夫を母性でコントロールしてゆくステラのほうに彼女自身の意志と「欲望」を強く感じる。 学歴や教職、そして伝統の旧い家に縛られ、そのような周囲の圧力によって愛した人を同性愛者となじらされ、その反動で自己の女性性にすがりついて生きてきたブランチ。
他者によってつくられた女性として、その人生を翻弄された姉の「欲望」は、意志を持たぬものであり、妹の「欲望」で途中下車してみるが、もちろん意志をもって家庭内売春をし、夫という下僕を南部という有色の街で手にした白い成功者である妹を啓蒙するには至らないのである。