エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグアを知るための45章 エリア・スタディーズ
ホンジュラスに強い思い入れがある私は、彼の国に関した書籍をここ数年渉猟し続けています。しかし、私の希望に応えてくれるような書物は多くありません。中米は日本人には心理的にも遥か彼方に位置していて、その関連書籍は商業的にペイしないと見られているのでしょう。例えば島袋あゆみ著「アスタマニャーナ・また明日ね」という優れたホンジュラス滞在記も自費出版という形でしか世に出ることが出来ません。
この「エリア・スタディーズ」のシリーズでホンジュラスが取り上げられるとは思いもよりませんでした。他の2国との抱き合わせである上、ホンジュラスに割かれたのは14章と、3カ国の中では頁配分が最も少ないのですが、それでも彼の国の情報に飢餓感のある私は本書をむさぼるように読みました。
取り上げている話題はスペインによる侵略史・疲弊した経済状況・比較的安定した政治史・マヤ文明史などです。コパン遺跡に4章も配分したのは、マヤ文明の関連書が比較的豊富に出ていることに鑑みると、もったいない気がします。
またエルサルバドルとニカラグアでは文学や映画など芸術面に多少なりとも触れているのですが、ホンジュラスに関しては同様の記述が見当たりません。この点も残念です。
一方で、政治・経済に関する情報は比較的新しく、大変有益に感じられる部分も少なくありません。また他の中米国に比べてその国民性が穏健であることに触れていますが、この点は懐かしい思いとともに読みました。確かに私が首都テグシガルパで言葉を交わした人々は物腰が柔らかく、温厚な人柄を印象づけるものでした。
なお、ニカラグアの反政府組織コントラの拠点がホンジュラス国内にあったことに触れた英国映画「カルラの歌」の監督名を「ケン・クローチ」としていますが(141頁)、正しくは「ケン・ローチ」です。
あなたにあえてよかった―ホンジュラス国際緊急医療援助隊 (心の絵本)
今から10年前の98年10月にハリケーン・ミッチの被害を受けた中米ホンジュラス。このとき、日本の陸上自衛隊は被災地へ向かい、初の国際緊急援助をおこないました。
現地での援助活躍やホンジュラスの人々と自衛隊員たちの交流などについて、イラストと共に紹介したのが本書です。
自然災害の被災地への派遣とはいえ、自衛隊の海外派遣については議論が続いているのですから、本書が取り上げるホンジュラス派遣を手放しで評価できるのかどうかはなんともいえません。
しかし私自身、一介の観光旅行者としてかの国を訪れた際、現地の人々に日本人と知れた途端に、「ミッチのときには本当に世話になった」と感謝されたものです。そんな小さな体験からも、現地の人々に物質的にも精神的にも自衛隊派遣活動は掛け値なしに大きな感動をもたらした取り組みだったということが分かります。
そして本書では、災害によって疲弊困憊している人々が、それでもなお、日本の援助に対して精一杯の謝意を示そうとする姿が描かれていて胸を打ちます。助け合い、いたわりあい、そして見返りを求めない。そんな人々の純朴で清明な心もちに、涙があふれて仕方ありませんでした。
若い隊員が「話に聞いている昔の日本人は、きっとこんな人たちだったんじゃあないか」と思わず言葉をもらしたとありますが、ホンジュラスの人たちは中南米の中でも概して穏やかな国民として知られ、かつて確かに存在して今は失われてしまった日本人的奥ゆかしさを想起させるところがあります。それがハリケーン・ミッチ直後に訪れた自衛隊員たちにまるでタイムスリップしたかのような感覚を与えたということなのでしょう。
被災者たちを助けにいって、確かに隊員たちは何かをもらって帰ってきた。
そんな思いをさせる一冊です。
関連書:「グラフ国際緊急援助隊 ハリケーン災害のホンジュラスへ自衛隊初の出動 記録写真集」防衛ホーム新聞社
マヤ・アステカ遺跡へっぴり紀行 ――メキシコ・グアテマラ・ホンジュラス・ベリーズの旅
歴史ミステリー番組やドラマで頻繁に取り上げられる古代エジプトやローマに比べると、なじみの薄いマヤ・アステカ文明。
これまでこの文明の名を聞いて思い描くのは、ピラミッドの頂上で神に生贄の心臓を捧げる神官や、人類の滅亡を予言すると(一部で)言われる暦くらいで、どことなく陰気なイメージを抱いていました。
しかしこの本を読んで、メソアメリカ古代文明の想像もしなかった愉快な面や明朗さに触れた思いです。マヤ・アステカ文明、特にデザインがこんなにマヌケだとは!また、遺跡や遺物に添えられたユーモアたっぷりのコメントには、いったい何度吹き出したことか。
それはきっと水先案内人である芝崎さんの、面白いもの愛らしいものに対する感性の鋭さあってこそなのでしょう。前作のエジプト本しかりギリシア本しかり、それほど興味のない文明であっても、この方が取り上げるとひとまず読んでみようかなと思わせる何かがあるのです。
専門書を手に取るまではいかないけれども、古代文明ファンとしてマヤ・アステカもちょっと覗いてみたい、という方にはぜひお勧めしたい本と言えましょう。こんな古代文明本、他ではまず見かけません。
これほどまでに情報みっちり、イラストびっちりなのにこのお値段で大丈夫なの?と思わず心配になってしまうほど充実感たっぷりの一冊です。
カリブ海 ガリフナ族の歌
ライナー・ノートによると、ガリフナ族とはポルトガルの奴隷船でアフリカから連れてこられた黒人たちの末裔です。船が難破してカリブの島に流れ着き、そこで彼らは独自の文化を発展させました。そのガリフナの伝統音楽を継承し民族の誇りを取り戻そうと活動を続けているのがこのCDのバンド「リタリラン(鶏の血)」で、89年にホンジュラスのラセイバで結成されました。
収録曲のうちおよそ半分が伝統民謡で、残りの半分がバンドのオリジナル曲です。民族の歴史を背負ったかのようにアフリカの大地の恵みとカリブの抜けるような青空と透き通る海を感じさせる音楽です。打楽器とギターの音色が基調になっていますが、それが時に友情の喜びを歌い、そして時に喪失した故郷への想いを悲しく奏でます。実に!多彩な顔を見せる民族音楽といえます。
私のお気に入りは11曲目の「ミギラバナ(いかないで)」というガリフナ民謡です。村を出ると言う兄と、置いていかないでと引きとめる妹。歌詞を読む限り悲しい曲のはずなのに、旋律はアンバランスなほど底抜けに明るく、人生の悲哀を吹き飛ばすかのような曲です。
こうした知られざる民族伝統の音楽をCDという形で企画することに尽力する日本人がいるということに、驚くと同時に深い敬意の念を抱きます。